貧困について考えてみた

いつも愛用しているNewsPicksで昨今、貧困について議論するのが流行っているようですので、流行にのって貧困について考えて見ました。



はじめに

まず、ここで言及するのは日本の貧困問題だけとします。世界中を見渡せば日本よりもサブサハラや南アジアのほうが深刻な貧困問題が見られますが、残念ながら僕にはアフリカの貧困について実感がわかないため、きちんとした見解が示せないためです。

まず、日本における「貧困」の定義と状況を確認していきます。厚生労働省が国民生活基礎調査において、日本の貧困率について公表していますので、この調査結果を基に日本の貧困について見ていきます。これによれば、貧困とはOECD(経済協力開発機構)が定めている基準を用いており、「等価可処分所得の中央値の半分」としています。等可分処分得とは、世帯1人あたりが年間で自由に使える金額のことで、日本では1人あたり111万円未満(2015年)の世帯が貧困世帯となります。そして、この112万円のことを貧困線と読んでいます。


貧困率の推移

では、この貧困線と貧困率はどのように変化しているのでしょうか。上述の厚生労働省の発表によれば以下の通りとなっています。この数値は物価変動を加味した実質値となっています。

1985年 貧困線:108万円 貧困率:12.0%
2000年 貧困線:120万円 貧困率:15.3%
2012年 貧困線:111万円 貧困率:16.1%

これを見ると、2000年に比べて貧困線が下がっているにもかかわらず、貧困率があがっていることが分かります。決して、中央値が上昇したことにともなって「相対的に」貧しくなったということでは無いということです。


こどもの貧困

次に最近話題となる「子供の貧困」に関する数値の経年変化を見ていきます。

1985年 片親世帯:54.5% 二人親世帯:9.6%
2000年 片親世帯:58.2% 二人親世帯:11.5%
2012年 片親世帯:54.6% 二人親世帯:12.4%

これを見ると片親世帯は長年にわたって過半数の世帯が貧困世帯にあることが分かる一方、二人親世帯での貧困率は上昇トレンドにあることが分かります。つまり、片親世帯の貧困は日本の伝統的な社会構造に由来し、二人親世帯は近年の社会環境の変化に影響を受けたものと考えられます。いずれにアプローチするかで対処方法は変わってくるでしょう。


高齢者の貧困



高齢者の貧困については統計資料上に独立した項目がありません。これは子供に比べて、高齢者の貧困への社会の注目が高くないということなのでしょうか。

左の表を見て見ると、高齢者世帯の所得の分布は母子世帯と非常に近しいものがあります。ただし、母子世帯が必ず2名以上の世帯であるのに対して、高齢者には単身世帯も居ます。高齢者世帯のうち単身世帯は、およそ半分です。

あまり細かく考えずにざっくり計算すれば、母子世帯の半分が貧困世帯とした場合、高齢者の貧困世帯は、その半分の4世帯に1世帯くらいになるかと思います。

ただ、留意しなければならないのは、所得が150万円未満の世帯でいえば母子世帯よりも高齢者世帯のほうが多いのです。国民年金の年間支給額は78万円です。したがって国民年金しか加入していなかった人は2人世帯でも150万円程度の所得しかありません。可処分所得となると確実に貧困世帯に入ってしまいます。


貧困と生活保護

貧困問題といえば生活保護との関係性も欠かせません。生活保護で支給される金額は居住地によって異なります。横浜市の中心部に一人で住んでいる高齢者の場合、生活保護費は月額8万円です。年間にして96万円となり、国民年金を上回ってしまいます。母子家庭世帯の場合は月額14万円で年間では170万円になります。

つまり、貧困線以下の世帯が生活保護を受給することで、少なくとも貧困線相当の生活は出来るということになります。貧困線に近い所得がある世帯はともかく、圧倒的に下回っている世帯については生活保護の受給に大きなメリットがあるにもかかわらず、なぜ受給されていないのか、そこを考える必要があるのではないでしょうか。


おわりに

以上の状況を自分なりに整理すると、やはり貧困対策としては生活保護費の支給が基本であるように感じます。しかし、残念ながら生活保護についてはネガティブなイメージが付きまとってしまっており、受給するためのハードルがあがってしまっているように見えます。

ですので、貧困問題に取り組むにあたっては、生活保護支給にあたってのハードルとなっている、①制度面の障壁、②心理的な障壁を取り除くことが重要ではないかと考えます。このうち、①制度面の障壁については、行政・議会への働きかけによる制度の見直しが、②については個々の貧困世帯ごとの地道なアプローチが求められるのではないでしょうか。

また、いずれにせよ生活保護を受給することに対する社会のネガティブなイメージ(パチンコに塚運だろ、といった)を払拭するための世論形成をどのように行っていくか、が一番のキーポイントになるように感じています。

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